平成26年6月18日に光交流会の第303回オプトフォーラムでお話しさせていただいた内容についての紹介です。
序章
光交流会は建築や店舗など空間の照明ではなく、検査などに使われる光学分野の方々が多かった為、まずは言葉の説明をさせていただきました。
「技術」というのは方法や手段のこと。
「概念」というのは、これはこういうものだよね!という感覚。
たとえば、昔はPDA(携帯情報端末)とパソコンとのデータを同期するにはケーブル接続する必要があるという概念がありました。
でも、今は「データを同期するのにケーブル接続」というよりも「ワイヤレス」で同期するのが普通で、むしろ、「同期する」ということすら、意識しないように概念が変わっています。
また、小さいうちからiPadで動画をみているような子どもたちにとって「画面はタッチして操作するもの」という概念で、パソコンの画面もタッチで操作しようとしたりします。
「価値観」とは、何が大事で何が大事でないかという判断。
この「価値観」は過去を振り返ると時代によって大きく変わります。
でも、一度自分に染み付いた「価値観」は、世の中がもはやその「価値観」ではないという変化に気づくのはとても難しいです。
私の自己紹介。
医療業界から、照明業界にうつり、iPhone3GSを使い始め、震災後にプログラミングの勉強をはじめ、「API」という技術に出会ってから、自分の中の価値観が大きく変わりました。
本日お話する内容です。
照明設計&照度計算のDIALuxのこと、建築における新しい設計方法BIMのこと、電材から建材へということ、APIという技術、そしてクラウドソーシングについてお話しします。
DIALuxについて
DIALuxはドイツのDIAL社が開発した照明設計と照度計算ができるソフトウェアの名前です。読みは、ディアルクスと言う人もいれば、ダイアルクスという人もいます。
DIALuxの特長は、なんといっても無料でダウンロードし使えること。器具メーカーに縛られることなく、各社の照明器具のデータが使えること。さらには、照度計算だけでなく、光や空間のイメージを3Dで表現できるので顧客へのプレゼンテーションにも使えるといったことがあります。
このDIALux。今でこそ普通に多くの人が利用し、日本国内の各照明器具メーカーもDIALuxで使用できるデータを公開していますが、かつては照度計算は各照明器具メーカーのノウハウの時代がありました。
オランダのフィリップス社は、もともとCalculux(カリキュラックス)という自社開発の照度計算ソフトを使っておりました。
途中から、CD-Romで配布するようになったのですが、その前は秘密保持契約を締結した顧客にしか提供しないような特別なソフトウェアでした。
フィリップスでは2004年ごろにCalculux Indoor(屋内用)の開発を終了し、以後は会社としてDIALuxを推奨するという方針に転換しました。
当時、私もPHILIPSの器具を販売するため、日本国内ではあまり名のしられていなかったDIALuxのCDを照明設計している顧客に配り、このソフトを使ってフィリップスの照明器具をスペックインしてもらえるような活動をしていました。
しかし、その当時にいわれたことは、使いたいメーカーの照明器具のデータが無いといったことや、このソフトで計算した照度計算値の責任は誰がとるのか?といったこと、また、英語でしか使えなかったので拒否反応を示されたりしました。
ネガティブな意見はいろいろありましたが、使い始めてくれた人もいました。
また、当時は操作方法もお互い探り探りであったので、DIALuxを使い始めた人たちで集まり、お互いの使い方を紹介しあったり、教え合ったりすることをはじめ、「DIALux勉強会」を月1で開催するようになりました。
あれから10年ほどの時間がながれ、今では日本語化され、各照明専業メーカーだけでなくパナソニックのような大手メーカーまでも、DIALux用のデータを公開するようになりました。
この、無料でメーカー縛りがなく、3DのCGをつくることができるDIALuxは2つの変化をもたらしました。
ひとつは、照度計算は照明器具メーカーがするものから、設計者がするものへと概念の変化を起こしたこと。
もうひとつは、照明器具の配光データは外部に公開してはいけないものから、公開したほうが良いものに価値観の変化をもたらしました。
BIM
これまでは、設備業者はそれぞれ自分の設備だけの設計をおこなっていたので、いざ現場で照明器具を取り付けようとすると、照明器具をとりつけようとした箇所にエアコンがついていたり、照明用として準備してもらったPF管に他の配線がされていたり、天井裏の高さが足りなくて、予定していた照明器具をつけることができなかった、などといったことがおこったりしました。
こういったことがおこる原因は、ひとつの物件でも業者ごとに設計データを作成していること。
BIMとは、ビルディングインフォメーションモデルの略で、簡単に言うと、今までそれぞれが独自で設計のデータをつくっていたのを、クラウド上にある3Dデータをみんなで設計して、事前に完成のイメージを共有できるようにしましょうというもの。
ちなみに、「クラウド」とは、簡単に言うと場所に依存せず、データを閲覧、保存、編集できる技術のこと。
BIMではなく従来の設計データは、照明、空調、内装、セキュリティー、そして構造と、それぞれがそれぞれで設計し図面を作成していました。
BIMではクラウドにあるデータにそれぞれがアクセスし設計を行います。
そうすることにより、変更・修正などの最新のデータの存在が明確になり、建築の中でどこに何がどれぐらいの大きさで使われていることがわかり、現在では照明設計するためにモデリングも照明設計者がやっているようなことも必要なくなります。
今まで、それぞれがそれぞれで設計しているために生じていたいろんなムダが、このBIMにすることによってなくすことができるのです。
BIMになると、パターン化できるところは自動計算(設計)するといったこともできるようになります。
たとえば、ひとつの建物を建てるいは、大小様々な資材をスケジュールにそって搬入する必要があります。
でも、それぞれの資材の大きさや梱包状態に、どのタイミングでどの資材が、どの場所に必要になるかが事前にわかっているので、コンピューターが計算することによって、もっとも効率の良い搬入スケジュールをつくることも可能になります。
BIMが起こす変化は、
- 技術の進化によって、ネット通信の高速化やストレージ価格が安くなったことなどにより、手元のPCではなく、クラウド上のデータで設計することが可能になった。
- 設備設計の手法もアウトプットも、2次元から3次元へと概念が変わる。
- 趣味趣向が求められない機能部分は、コンピューターによる自動設計でよいという価値観になる。(設計に必要なデータは社外へ出せないという価値観では疎外されていく)
といったことがおこり、これは図面を書くのがドラフターからCADに変わった以上の大きな変化を引き起こします。
この変化により、それまで自社の差別化されていたことや、収益を得ていた部分を根こそぎ奪われるようなことがおこります。
電材から建材へ
LEDの進化は目覚ましいものがあり、一般照明の分野においては、「まだまだ明るさが足りないからLEDは無理だよ」なんていわれるようなことは全くなくなりました。
そうなってくると、そもそも照明器具という形である必要はあるのか?という疑問がわいてきます。
照明器具は「電材」でしたが、建材にLEDが組み込まれれば、電材である意味がありません。
照明器具は天井材をくり抜いて設置しますが、そもそも天井材にLEDを使って照明としての機能をつけると、わざわざ後から照明器具を設置するという工事さえも必要なくなります。
そうなると、それまで自分の会社で販売したいた商材が、まるまる別の業種での取扱になってしまうなんてことも起こりえます。
API
APIとは、Application Programming Interface(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の略で、簡単に言うと
データベースやシステムを、第三者が利用できるようにする仕組みのことを言います。
APIの例を紹介すると、GoogleMapはAPIを公開していて、自分でプラグラムした内容とGoogleMapを組み合わせて、ひとつのアプリケーションのようにすることができます。
また、リクルートのカーセンサーは中古車のAPIを公開しており、カーセンサーに登録されている中古車の情報を他のウェブサイトに表示させるようなことができたりします。
プログラミングをやってこと無い人にとっては、「なんのこっちゃ?」と思われるかもしれません。また、これのどこが照明に関係あるの?と思われるのも当然です。
でも、こちらご存じの方も多いでしょう。
PhilipsのHue(ヒュー)というLEDランプです。
このHueは、APIを公開して第三者がアプリケーションを作れるようにしています。
余談ですが、NHKだって番組情報を取得できるAPIを公開しています。
そして、Philips HueのAPIとNHKの番組表APIを組み合わせるとどんなことができるかというと、大相撲が始まったら、部屋の照明を真っ赤にして点滅する、みたいなこともできたりするんです。
大事なことは、「今までは別個のものを、データでもシステムでも組み合わせることのコストが大幅に下がってきている」ということで、 先程の「大相撲が始まったら部屋の照明を真っ赤にする」なんていったことも、プログラミングさえできれば、趣味の範囲で実現できるということ。
ちなみに、国や自治体も、自分たちがもっている様々なデータを「オープンデータ」として公開し、またAPIをつくることによって、公共のデータとなにかを結びつけて有益に使ってもらうというような動きがあります。
APIによって、システムやアプリケーションは自社内のリソースをつかってつくるものではなく、公開して第三者につくってもらうものというように概念がかわり、自社のシステムやデータは公開し、他のシステムやデータとの連携をしたほうがよいと価値観がかわってきています。
クラウドソーシング
たとえば、あなたの手元に、600件の病院のデータがあります。(病院名、住所、病床数など)ただし、電話番号が入っていない。電話番号を入れたデータが必要なのですが、みなさんならどうされます?
また、こんなケースはいかがでしょうか?
社内用の資料にある施設の外観写真が必要です。ただし、その施設は、大分県、高知県、秋田県の3箇所にあります。みなさんならどうされます?
いずれも、お金と手間をかければ解決できないこともないですが、クラウドソーシングを使うと、もっと低コストで楽に解決することができます。
クラウドソーシングとは、不特定多数の人に業務を委託するという新しい雇用形態のこと。
(wikipediaより)
日本国内だと、Shufti(シュフティ)、CrowdWorks(クラウドワークス)、Lancers(ランサーズ)といった会社があります。
先程あげたような、データの入力や距離の離れた施設の写真撮影など、具体的に何をすればいいかということが明確な仕事は、クラウドソーシングをつかって作業してくれる人を探すことによって、迅速かつコストを抑え外部に委託することが可能になります。
クラウドソーシングのように新しい技術によって、年齢も住んでいるところも様々な不特定多数に仕事を依頼する仕組みが、ますます増えていき、外注先を見つけることにかけるエネルギーよりも、リスクを少なくクラウドソーシングに仕事を発注するというスキルという概念が生まれ、クラウドソーシングに出せる仕事と出せない仕事という価値観が生まれます。
まとめ
以上、DIALux、BIM、電材から建材へ、API、クラウドソーシングということについてお話しをさせていただきました。
ひとつひとつは、照明に大きく関係なさそうにみえても、その背景には大きく「技術」と「概念」と「価値観」が変化しているという大きな時代の流れがあります。
時代の変化は、これまでのビジネスがこれまでどおりにできなくなるピンチでもありますが、変化を捉え、いち早く先を見越してその手を打つことで大きなチャンスにもなります。
ただし、こういったものはいくら本を読んだり話をきいたりするよりも、自分の肌感覚として経験する、使ってみることが一番重要なので、私のオススメとしては、プログラミングを実際にやってみること、クラウドソーシングをつかってみること、そして、今は自分が当たり前だとおもっている「価値観」を疑ってみること、などをするといいのではと思います。